眠りの森のシンデレラ

「クローバーの面々は横に置いて、それより、桔梗は用意できたかしら?」
「高徳寺家お抱えのヘアメイクさんが撫で回しているから大丈夫でしょう」

別室で支度をしている桔梗は、第一部の最後で、則武から正式に妻と紹介される予定だ。

モニターに映し出される人々の中に、桔梗の姿はまだない。

「マスコミが入っているから、防犯上、桃花は名前のみの紹介でしょう。で、桃花は?」

薫の問いに登麻里が答える。

「金成氏と一緒にいるわ。彼、今日は桃花のボディーガードだって」
「あら、じゃあ、安心ね」

そこにトントンとノックの音がし、清が入って来た。

「琶子、用意はできたか?」

部屋に入るなり、清は固まる。

いつものように髪は頭上でお団子を結っているものの、その下の顔は、舞台用に少しハッキリ化粧され、普段よりグッと大人びて見えた。

身に付けているオフホワイトのワンピースドレスは清が選んだものだ。
耳元のイヤリングと首元を飾るネックレスはピンクパールで、衣装に合わせ特注した。

ローズホテルに泊まり込み、四日ぶりに会えた琶子の、その清楚な美しい姿に、完璧だ、と清は満足そうに目を細める。

「あらっ、榊原さん、お久し振り」

登麻里と薫はニヤリと笑い、目くばせし合う。

「じゃあ、琶子、私たち、ちょっと桔梗の様子を見て来るわ」

そそくさと出て行く二人の後姿を見送り、清は「なかなか出来た奴ら」だと片唇を上げる。

< 259 / 282 >

この作品をシェア

pagetop