眠りの森のシンデレラ
「……第一部をこれで終了させて頂きます。最後に、締めの挨拶を光徳寺社長にお願いしたいと思います。それでは、どうぞ!」
高徳寺の名を聞き、アッ、と琶子は清から顔を逸らし、モニターを見る。
琶子の唇が離れた途端、清はムッとする。
だが、モニターに則武が現れると、琶子同様、モニターを見つめる。
締めの挨拶を無事果たした則武は、「最後に」と極上の笑みを浮かべ、舞台の裾に目をやり、こっちにお出で、と目配せする。
鳳居京之助は意を察し、桔梗を緞帳の陰から引っ張り出す。
則武はその姿を見つけると、彼女に歩み寄り、その手を引き、舞台中央に戻ると、自分の横に立たせた。
「もう、皆様もご存じだと思いますが、私、高徳寺則武は、ここにいる桔梗と夫婦になったことを、今一度、正式にお伝えいたします。そして、私たちの娘である桃花の存在もここで明らかにさせて頂きます……」
桔梗の顔がアップになる。その顔は、幸せに満ち光り輝いていた。
「愛に包まれた聖母の美しさ……」
ツイと口を突いて出た言葉に、琶子はハッと閃く。
「次回作はこれだわ!」
画面に二人の姿が映る。
微笑み合う二人に、会場から惜しみない拍手のシャワーが降り注ぐ。
「苦境を乗り越えた美しき聖母と御曹司の恋物語。ああ、素敵過ぎです!」
琶子もキャッキャッと手を叩く。
さっきまでの悲壮な様は何処へ消えた、と物語の世界に片足を突っ込みかけた琶子を見ながら、清は呆れ笑いを浮かべるも、やっぱりコイツは根っからの作家だ、と温かな目でその肩を抱く。
「興奮冷めやらぬ会場ですが、これで第一部を終了させて頂きます。尚、第二部は休憩を挟み、午後三時半より大ホールで開催いたします」
鳳居京之助のアナウンスに、琶子の心臓が再びドグンと音を立てる。
「せっ清さん、あの……もう一度、ギュッて、してもらっていいですか?」
いきなり現実に戻った琶子の可愛いお願いに、そんな願いなら、何百万回でもきいてやる、と清は盛大に目尻を下げる。