眠りの森のシンデレラ
第二部のトークイベントは午後五時まで。その後、質問タイムがあり、終了後三十分サイン会が開かれる。
「本当は『サイン&握手会』だったんでしょう?」
舞台の裾で裕樹が則武に訊ねる。
「ああ、あのダメ出し男め! 『握手・写真NG』だとさ、でないと琶子は出演させないと反旗を翻した」
ああ、清ね、なるほど、と裕樹は視線を舞台に戻す。
イベントは鳳居京之助の絶妙なリードで進められていく。
緊張していた琶子も、しだいに彼の魔法にかかり、その場を楽しんでいた。
午後五時まで、残り二十分。
鳳居京之助が突然核心を突く質問を始めた。
「著書『今ある』についてお聞きしたいと思います。あの著書は心に深い傷を持つ少女が、周囲の温かな愛と愛する人の癒しを得、徐々に成長を遂げる自己形成小説ですが、ズバリ、ご自身の体験を基にして書かれたものなのでしょうか?」
琶子はフルフルと首を横に振る。
「いえ、違います。あの著書は、私の大切な人から、大切な方々へのメッセージをしたため、物語にしたものです。ですが、共通する内容もあります。私も周囲の温かな愛と愛する人の癒しを得、この場に立つことができました……」
琶子の口が僅かに「ありがとうございました」と動く。
「ということは、そのお一人は榊原清さんということになりますよね」
鳳居京之助がニッコリと微笑む。
「ねぇねぇ、あんなこと聞いちゃってるよ、いいの?」
裕樹が則武の脇腹を肘で小突く。
「ああ、ざっとインタビュー内容は打ち合わせているが、細々としたことはアイツに一任している。清の顔を見ろよ、面白がっているぞ」
則武が緞帳横で見守る清を目線で指す。