眠りの森のシンデレラ
「あっあの、はい」
琶子が真っ赤になりながら答えると、突然会場から「琶子ちゃん、可愛い!」と男性の声が飛び出す。
「見ろよ、清が会場の男どもに焼きもちを焼き始めたぞ」
「ウワッ、やばくない?」
二人はそんな会話を交わしながらも、清の焼きもちを思い切り楽しんでいた。
「……私はコンプレックスの塊人間でした。清さん……あっ、あの、榊原さんを不幸にしてしまいそうで、素直に彼の言葉が聞けませんでした。ですが、彼がその壁を叩き壊してくれたのです」
「なるほど、彼は強靭だったということですね」
「はい。あの、ここでこんなことをお伝えするのは、変かもしれませんが……」
琶子がコクンと息を一つ飲み、言葉を発する。
「私は恩人から『世界の中心は愛。最強の愛は恋愛から生まれる』という言葉を頂きました」
琶子は懐かしい風子の姿を思い出す。
「小説をズット書きながらも、私は本物の愛を知りませんでした」
「あれだけ素敵な小説を書かれるのに、ですか?」
「あっ、お褒めのお言葉、恐縮です。ありがとうございます」
ペコリと頭を下げると、琶子は話を続ける。
「はい。お恥ずかしいのですが……榊原清さんに会うまで……あの……その……」
モジモジし始める琶子に鳳居京之助が優しく問い掛ける。
「その、何ですか?」
「榊原さんに会うまで、知らなかったのです……愛も恋する気持ちも……ですので……えっと……」
琶子は真っ赤になりながら唇を噛む。
「琶子~、ガンバレ!」
今度は観客席から幼く可愛い声が舞台に飛ぶ。桃花だ。