眠りの森のシンデレラ

「あっあの、はい」

琶子が真っ赤になりながら答えると、突然会場から「琶子ちゃん、可愛い!」と男性の声が飛び出す。

「見ろよ、清が会場の男どもに焼きもちを焼き始めたぞ」
「ウワッ、やばくない?」

二人はそんな会話を交わしながらも、清の焼きもちを思い切り楽しんでいた。

「……私はコンプレックスの塊人間でした。清さん……あっ、あの、榊原さんを不幸にしてしまいそうで、素直に彼の言葉が聞けませんでした。ですが、彼がその壁を叩き壊してくれたのです」

「なるほど、彼は強靭だったということですね」
「はい。あの、ここでこんなことをお伝えするのは、変かもしれませんが……」

琶子がコクンと息を一つ飲み、言葉を発する。

「私は恩人から『世界の中心は愛。最強の愛は恋愛から生まれる』という言葉を頂きました」

琶子は懐かしい風子の姿を思い出す。

「小説をズット書きながらも、私は本物の愛を知りませんでした」
「あれだけ素敵な小説を書かれるのに、ですか?」
「あっ、お褒めのお言葉、恐縮です。ありがとうございます」

ペコリと頭を下げると、琶子は話を続ける。

「はい。お恥ずかしいのですが……榊原清さんに会うまで……あの……その……」

モジモジし始める琶子に鳳居京之助が優しく問い掛ける。

「その、何ですか?」
「榊原さんに会うまで、知らなかったのです……愛も恋する気持ちも……ですので……えっと……」

琶子は真っ赤になりながら唇を噛む。

「琶子~、ガンバレ!」

今度は観客席から幼く可愛い声が舞台に飛ぶ。桃花だ。

< 266 / 282 >

この作品をシェア

pagetop