眠りの森のシンデレラ
中音で聞き触り良い甘い声が、琶子の耳奥に響くと、見る間に白磁の肌が朱に染まる。
想定内のリアクションだが……清は琶子の細い首筋を見つめる。
ここまで紅く染まるとは……その反応に満足すると、清は何事もなかったかのように手を放し、姿勢を戻す。
琶子は茫然自失に、清が繰り広げる一連の動作を見つめていた。
なっ、何が起こったの!
妄想を遥かに超えるリアル王子の行動に、キャパシティを崩壊させ、テンパる琶子は、ウワッと咄嗟に顔を伏せると、パーカーのフードを深く被る。
この人は何なんだ!
脳をフル回転させ、榊原清なる人物を、記憶のデーターバンクから掘り起こす。
そして、思い出す。
薫さんの言っていたお客様の一人だ……恩人の家族だ……と。
そうか、この人が……琶子はフードの陰から清をチラ見する。
気高く美し過ぎる容姿。それ故、恐ろしく厳しく見える。
その姿はまるで、天から地上を見下ろし、人々の動向を見つめるギリシャ神話の太陽神ヘーリオスみたいだ、と琶子は思う。
「あの、えっと、失礼しました」
恐る恐るフードを取り、深々と頭を下げると、琶子は今一番、気になることを訊ねる。
「榊原さん、貴方はここで何をされているのでしょう?」
「散歩。君は会合に出なくていいのか?」
「あっ、はい、金ちゃんが……金成さんが対応すると……」
ああ! と琶子は理解する。「会いに来た」とはそういうことか……と。
清もまた、なるほど、と理解する。
二人の間を涼やかな風が通り抜ける。
その時、唐突に「あ」の声と共に、琶子が人差し指を突き立て、清の斜め後ろを指す。