眠りの森のシンデレラ
何だ? と清は怪訝な表情を浮かべ、その指を辿り、振り向く。
「……あの、どうぞお座り下さい」
指の先には、芝生の上に敷かれたブサ犬柄のビニールシート。
清は困惑気にシートと琶子に視線を行き来させる。
「えっと、お疲れのようですし……立ったままだと何ですから……」
琶子の頑是ない瞳が、遠慮しないで、と再度勧める。
ここに座れと? 疲れている? 俺が?
喜怒哀楽のない顔を『恐い』や『能面』と表されることはあっても『疲れている』と言われたのは初めてだった。
琶子の言葉に戸惑いながらも、清は心の奥の何かがホッするのを感じ、その思いにまた戸惑い、フッと苦笑いを浮かべる。
初対面の女に身の内を知られるとは……何も考えていない昼行燈のようだが、コイツ見掛けによらず……鋭い?
清は化粧っ気の無い、幼さの残る顔を見つめ、少し観察してみよう、と琶子の誘いに乗ることにした。
「じゃあ、休ませてもらう」
そう言うと腰を下ろし、長い足を投げ出す。
芝生がクッション代わりになり、なかなかの座り心地だった。
その感触に懐かしさが込み上げる。
清は体を少し後ろに倒し、両手をシートの上に付く。
サワサワと緑の風が、心地良さと気怠さを呼び覚ます。
何十年振りだろう……解放感? そんなものを覚えるのは……。
「仕事だろ、続けて」
「……あっ、はい」
清は身を起こすと、サングラスをかけ、ウーンと大きく伸びをし、今度は両手を後頭部で組み、ゴロンと横になる。
気持ちがいい。
琶子は清を盗み見ながら、込み上げる笑いを堪えていた。
嗚呼、華麗なるミスマッチ!
キャラクターシートと超絶美形王子。この組み合わせ……無いわ!
やはりここは、真紅の薔薇柄のビニールシートだな、と独り言ちる。