眠りの森のシンデレラ
清が寝入ったのをいいことに、琶子は改めて彼の顔をまじまじと見つめる。
普段の琶子なら、こんなに早く人馴れしないのだが、現実離れした清の美しさに、未だ妄想世界と現実世界が混濁してしているようだ。
本当に綺麗な人だな、と清の寝顔をウットリ見つめながら……でも、喜怒哀楽が少ないのは……性格? 疲れ過ぎて表情筋を動かすのが面倒? はたまた、神々しいまでに整い過ぎた美しい顔のせい? もう少し表情豊かなら、お伽の王子なのに、と残念に思う。
その思いを薫に聞かれていたら、天下の榊原に向かって、あんた何様! とデコピンを食らっていただろう。
まぁ、何にしても、今は静かに寝かせてあげよう、と琶子は再び物語の世界に没頭していく。
タイピングの音が聞こえ始めると、清はサングラス越しに琶子に目をやる。
ディスプレイ画面を見つめ、鼻の頭にシワを寄せたり、口をタコのように尖らせたり、忙しく表情を変える琶子が、空を仰ぎフッと口元を綻ばせるのを見て、なんて幸せそうなんだ、と清は思う。
そして、琶子の周りに漂う穏やかで温かな空気に、無性に触れたくなった。
あの中に包まれたら、安穏な日々を取り戻せるだろうか……そんなことを思いながら、いつの間にか清は夢界に旅立っていた。