眠りの森のシンデレラ
「で、君は俺の横に座り、何をしようとしていたんだ?」
富豪というバックボーン故からか、清は幼い頃から他者に対する警戒心が異常に強かった。
初対面で爆睡するとは……。
清は自分の行動が信じられなかった。こんな失態は初めてだった。戸惑う視線が琶子を見る。
「えっと、おやつを食べようかと。榊原さんもお目覚いかがですか?」
琶子がバスケットを開く。清の鼻先をフワッとバニラの甘い香りが掠める。
取り出したワンプレートの仕切り皿には、マカロンやプチケーキなど、婦女子なら「キャッ、可愛い!」とハニカミポーズを取りそうな、見た目にも美味しそうなスウィーツが数種乗っていた。
懐かしい香りだ……。
清の亡き母の趣味は、お菓子作りだった。
忙しい合間を拭い、毎日のようにキッチンで何かしら作っていた。
そう言えば、あの甘ったるい香りのお陰で、男性陣はキッチンを避けていたな、と清は昔を思い出し苦笑する。
琶子が二人の間に置いたバスケットの上に皿を置き、ケーキよりも甘い笑を浮かべる。その微笑みに、清の心臓がドクンと音を立てる。
呪縛を解く……ナナの声が蘇る。
この子が俺を解き放つと言うのか?
ナナとは違うが、ナナと同じ癒しの笑。清はそれに魅入る。