眠りの森のシンデレラ
「お味はどうですか?」
琶子の慌てふためく姿を想像していた清は、自分の思っていた反応と全く違う反応を見せる琶子に驚く。
仕掛けに乗らぬとは、ある意味大物か?
だが、まぁ……それはそれで面白い、と不敵な笑みを浮かべる。
「材料も一流だがシェフの腕も確かだ」
琶子は破顔させ「でしょう、でしょう」と何度も頷く。
「ん……薫……。桜井薫、奴か?」
「エッ、榊原さん、ご存じなんですか薫さんのこと」
「各国大使館御用達として有名だ。めったに姿を現さないため、謎のパティシエと呼ばれている」
清は紅茶を一口飲み、生チョコに視線を向ける。
琶子はそれに気付き、チョコをピックで刺し、また、清の口元に持っていく。
すると、先程と同様、清はそれをパクリと口に入れる。
やっぱり、餌付けだ! 琶子は喜々とする。
「えっと、そんなに有名だったのですか? 薫さんって」
思わぬ事実発覚に、琶子は驚く。
どおりで、超越美味しいはずだ、とクッキーを手に取り、何年もそのことを知らなかった私って……なんて失礼な奴なのだろう、と猛反省する。
「君は世間知らずなのか、それとも無知で馬鹿なのか」
清からの屈辱的な言葉がそれに追い打ちをかける。
琶子は怒るよりも顔を真っ赤にし、俯き、呟く。