眠りの森のシンデレラ
「ここは私有地だ。仕事とは一切関係ない」
清は手にした書類にチェックを入れながら、素っ気なく答える。
「ほほおー、個人資産」
則武の眼がギラリと光り、脳内電卓が激しく動き出す。
弾き出された数字に満足し、ニンマリ頷く。
「幼馴染とは言え、お前のシークレットは、まだまだ奥深い」
「僕も知らなかった。近江琶子が住んでいること、どうして隠していたの?」
清は裕樹を一瞥し、再び書類に目を落とす。
「おやおや、完全無視か」
チャラけた則武の言葉に裕樹は肩を竦め、リュックから本を一冊取り出す。
「ん? それ琶子の処女作、初版本じゃないか!」
「流石、則武」
フッと笑みを浮かべ、裕樹は愛おし気にそれを撫でる。
本の表紙には『今があるから明日も』とある。
近江琶子はこの小説を、六年前に発表した。
著書の内容は心に深い傷を持つ少女が、周囲の温かな愛と愛する人の癒しを得、徐々に成長していく自己形成小説だ。
フィクションとは思えないリアルさと、主人公の死というセンセーショナルなエンディングにもかかわらず、清々しさを残した後味の良さで、幅広いファン層の支持を得、たちまちミリオンセラーとなった。
その後、著書は様々な賞を獲得し、彼女は時の人となったのだが……。
清は手にした書類にチェックを入れながら、素っ気なく答える。
「ほほおー、個人資産」
則武の眼がギラリと光り、脳内電卓が激しく動き出す。
弾き出された数字に満足し、ニンマリ頷く。
「幼馴染とは言え、お前のシークレットは、まだまだ奥深い」
「僕も知らなかった。近江琶子が住んでいること、どうして隠していたの?」
清は裕樹を一瞥し、再び書類に目を落とす。
「おやおや、完全無視か」
チャラけた則武の言葉に裕樹は肩を竦め、リュックから本を一冊取り出す。
「ん? それ琶子の処女作、初版本じゃないか!」
「流石、則武」
フッと笑みを浮かべ、裕樹は愛おし気にそれを撫でる。
本の表紙には『今があるから明日も』とある。
近江琶子はこの小説を、六年前に発表した。
著書の内容は心に深い傷を持つ少女が、周囲の温かな愛と愛する人の癒しを得、徐々に成長していく自己形成小説だ。
フィクションとは思えないリアルさと、主人公の死というセンセーショナルなエンディングにもかかわらず、清々しさを残した後味の良さで、幅広いファン層の支持を得、たちまちミリオンセラーとなった。
その後、著書は様々な賞を獲得し、彼女は時の人となったのだが……。