眠りの森のシンデレラ
「私、ここから出たことなくて……」
「それでも、外の世界を知る手立てはいくらでもある筈だが」
情報は溢れている。それは分かっている。だが……と琶子は清を見る。
何も知らないくせに! 蔑むような清の眼に怒りが込み上げる。
「外の世界なんて興味有りません! 私は自分の作品に関すること以外、知りたくありません!」
清の言葉にも、眼差しにも、怯まない、ハッキリとした声が強く言い切る。
琶子に先程までの、遠慮がちな、子供じみた様子はない。
ホー、これはこれは、俺に立て付くとは貴重な体験だ。
普段とは違う、面白い展開に、清の肌が粟立つ。
「どうしてだ」
「言いたくありません!」
清の瞳を琶子はキツク見据える。
凛とした鈴の音の声、強い意志を含んだジェムの瞳。
呪縛……解く……この娘が……清は息を飲む。
ドクドクと高鳴る胸。
長らく閉じ込めていた人間らしい感情と感覚が……封印した筈の想いが……堰き止められていた水が噴き出すように清の心に流れ込む。
その一瞬で、清は琶子に興味惹かれた。そして、何かが始まる、と直感した。
「ほほう、なら、言いたくなるようにするまでだ」
挑発するような妖しい眼差しが琶子を見つめ返す。
その眼力たるや、強烈で、鋭利で、恐ろしいほどに魅惑的だった。
琶子はその瞳に飲み込まれそうになり、言い知れぬ不安を抱く。
この人……ある意味危険人物かも……心の信号がパカパカと黄色く点滅する。
琶子は無駄だと分かっているが、清の視線から逃げるようにジリッと腰をずらす。
その時、清の胸元から受信音が聞こえ、彼の意識がそれへ移る。
瞬時に緊張が解かれ、琶子はホッと胸を撫で下ろす。