眠りの森のシンデレラ
「清! 桜井薫さんって、あの超有名パティシエだよ。今、僕の所と提携しないかって口説いていたところ」
裕樹は先程と打って変わり、目を輝かせながらテーブルのスウィーツを指差す。清の眼にマカロンと生チョコが映る。
「なぁ、お前、このシェアハウスのメンバー、本当に知らなかったのか?」
則武が声を潜め耳打ちする。
清はその声で、則武がどれほど興奮しているのかが分かった。
「……」
無言の清に、続けて則武が言う。
「近江琶子、池田登麻里、桜井薫、リドルゲームサイト『シークレット』に名を連ねる著名人たちだぜ」
そして、わざとらしく咳払いすると、登麻里に向かってにこやかに言う。
「俺は登麻里先生に小説をお願いしていたところだ、ネッ、先生!」
則武が唇を突き出しチュッと投げキッスをする。
登麻里はハァと気のない返事をし、立ち上がると清に向かって丁寧なお辞儀をする。
「先程はご挨拶もそこそこに失礼致しました。改めまして、池田登麻里と申します。よろしくお願いします」
彼女があの池田登麻里……か。上品で慎ましやかそうだが……彼女もかなりのやり手だ。物事を斜め上から見る、清の勘がここでも働く。