眠りの森のシンデレラ
「池田さん、金成氏に東棟の、俺の部屋へ来るよう伝えて下さい」
「あらっ、あの開かずの間、貴方の部屋だったの? 長年の謎が解けたわ。あっ、聞いたわ。ここは貴方のお屋敷ですってね」
薫は裕樹を指差し、彼に聞いた、と目で伝える。
裕樹は悪びれもせず、生チョコを口に放り込み、「これも絶品」と満面の笑みを浮かべる。
清は返答せず、薫と登麻里に軽く会釈をし、エントランスホールから東棟に続く廊下に向かって歩き出す。
登麻里も、こうしちゃいられない、と慌てて立ち上がると、金成のいる二階へ続く大階段を急ぎ駆け上る。
薫は顎に人差し指を置き、清の背中を見つめ、裕樹に尋ねる。
「ねぇねぇ、彼、いつもあんな調子? 極上のイケメンだけど不愛想だこと」
「清のこと? そうだよ。三年前、副総帥に着いてから、更に拍車がかかったかな。内も外も切れ者だけど……。アッ! でも、仕事外では時たま天然、入るかも」
裕樹はクスリと笑いマカロンを口に入れる。
「苦労人なんだよアイツ。俺たちの比じゃないほどに……あの若さで巨大な組織を背負っているし、爺さんは清を溺愛するあまりメチャ怖いし……不愛想なのは許してやってね」
則武は片目を瞑り魅惑的なウインクをする。
「だから、奴の天然振りを見るとホッとする」
「ねーっ」
則武と裕樹が、意味有り気に顔を見合わせニシャリと笑う。
その様子に薫は、フ~ン、友を擁護する……か。なかなかイイとこあるじゃない! と二人の印象を少しだけ良くする。