眠りの森のシンデレラ
「悲しいかな母親は弱かった。豹変したんだよ。DVを受ける度、琶子を虐待するようになった。虐待することで、自身の精神を保とうとしたんだと。どんな道理だ」
金成は忌々し気に言葉を吐き捨てる。
「で、結末は悲劇。父親は自殺、母親は病院送り、身寄りのない琶子は孤児院へ。奥様はなぁ、二人を守れなかった、と自責の念に駆られ、眠りの森を管理していた俺に頭を下げた。琶子を引き取り、後見人になってくれと……」
清は琶子の過去を知り、琶子の姿を思い出す。
あの微笑みの奥にそんな過去があったとは……そう思った瞬間、何かに胸を鷲掴みされたかのように苦しくなる。
苦しさの中に一つ疑問が沸く。
「なぜ、独身のオヤジさんを後見人に?」
「さあ、風子奥様の真意は、俺にも分からん」
金成は左右に頭を振る。
「正直、戸惑ったよ。ガラにもないからな。だが、大恩人の頼みだ。断れなかった」
過去に何があったか分からないが、金成は常々、「俺は生涯独身貴族だ!」と声高らかに宣言していた。よって子供など言語道断、煩わしい、とさえ言っていた。
なのに……何故、金成だったのだろう? 清は母の意図が分からなかった。
だが、あの母の事だ、意味も無く金成を後見人にするとは思えなかった。
「……当時のあいつはボロ雑巾のようだったよ。例え俺が後見人になったところで、奥様とナナ譲の愛情無しに、あいつの心は救えなかったと思う」
金成は自分の不甲斐なさを自嘲し、琶子の写真を愛おし気に撫でる。