眠りの森のシンデレラ
「キャッ、金蔵様、どおなさったのぉ、こんな朝早く」
普段、本社ビルが入るマンションに寝泊まりしている金成が、こんなに朝早くから姿を現すのは珍しかった。
薫は金成に駆け寄り、彼の腕に自分の腕を絡める。
「ああ、出張帰り。これ、土産」
ドンとテーブルに置かれた紙袋を、薫は嬉々と覗き込む。
「ペニンシュラホテルオリジナルチョコにクッキー。奇華餅家(キーワーベーカリー)のパンダクッキー、XO醤油、ジャムもある。香港に行ってらしたの?」
薫はパンダクッキーを手にすると、「可愛いわ」と微笑む。
「ああ。今日は風子ディナーの日だろ。だから無理して帰ってきた。コーヒー飲んだらそれまで寝る」
欠伸を繰り返し、コキコキと首を鳴らす。
「あらっ、だったら紅茶にブランデーの方がよくてよ」
「何でもいい……それでいい……」
「じゃあ、すぐに淹れますね。はい、こちらの椅子に座りましょうね」
椅子に座った途端、金成は丸テーブルに突っ伏す。
「あっ、ここで寝ない。しばらくお待ち下さい」
薫はいそいそと世話を焼く。
「琶子……クソォ、眠い……! 今日、榊原達が来る。話を聞いてやれ」
「ふぁい?」
桃花の横で口をモグモグさせていた琶子は、フォークとナイフを手に振り返る。