眠りの森のシンデレラ
「あぁ……でもな、『幻の作家』と異名を持つ引き篭もり作家、まさに眠り姫だろ。ここだけの話、彼女が文筆家になって六年も経つというのに、未だ面識がない」

則武は芝居掛かった大袈裟な溜息を付く。

「プロフィールの記載は誕生日と女性とだけ。確か、今、二十二歳だ。全く! どんなアプローチが効果的なんだか。頭脳明晰、狙った獲物は必ずものにする俺でさえ、お手上げ、さっぱり分からん。いっそお伽の王子を見習い、目覚めのキスでもするか?」

「何それ、本当に会ったことないの? 君、出版界のドンとか言われていなかった?」

呆れたように裕樹が言う。

「ああ、マジで。仕方ないだろう、強欲とか暴君とか悪評名高い金成不動産社長、金成金蔵(かねなりきんぞう)が近江琶子の後見人兼代理人なんだから。奴のガードが固く、何度アポイントを入れても門前払い。今回の訪問は奇跡だ」

「……ということは、当然、今日、金成氏……登場するよね」
「あちゃ、そうだ! どうなんだ?」

裕樹と則武は清に視線を向ける。
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