眠りの森のシンデレラ
「高徳寺からの出演依頼の件、交渉続行させてくれだとさ」
薫はテーブルに紅茶を置くとフフンと鼻を鳴らす。
「あらっ、やっぱり。彼、諦めてなかったのね。結構、骨太だこと」
「ーー無理なのに……」
琶子はフォークで皿を突きながら、眉を八の字に下げる。
「まぁ、邪険にするな。お前が引き受けないと、ストーカーもどきの女がゲストになるんだとさ。すっごく困っていたぞ」
金成はブランデー入りの紅茶の香りを吸い込み、ゆっくりカップを傾ける。そして、カップ越しに琶子の顔を盗み見る。
相変わらずだな……金成の作戦は成功のようだ。琶子の顔色が変わる。
「金ちゃん、私のせいで誰かが困るの? それは困る! えっと、お話しを聞くだけなら……」
あーあっ、と百花が溜息を付く。
「本当、琶子って人がイイねぇ。そんなお人好しじゃあ、世の中渡っていけませんぜ!」
「って、あんたは幾つ!」
薫は桃花の頬っぺたを軽く抓る。
「痛い止めろ! この暴力オカマ。金ちゃん、たすけへ」
「お前ら、本当に仲イイな」
「どこが!」
薫と桃花が声を揃え、同時に叫ぶ。
「まあ、そういうことだ。よろしく」
金成はハハハと笑うと紅茶を飲み干し、ファ~と大きな欠伸を一つし、キッチンから出て行く。
その後ろで、薫対桃花の無意味なバトルは続く。