眠りの森のシンデレラ
大きな夕陽が辺りを黄金色に染め上げ、非日常を思わす神秘的な雰囲気を作る中『風子ディナーの日』は、ある意味盛り上がっていた。
「改めて近江琶子さん、お願いします」
則武は右手を差し出し、九十度のお辞儀をする。
軽いノリだ。深く話もせず、いきなりプロポーズもどきって……と琶子は呆れながら目の前の人物を見つめる。
「裕樹、お前も頭を下げろ! 協力するんだろ!」
「……う……ん」
裕樹は会いたくて堪らなかった琶子を目前に、フリーズ状態が続いていた。
その手には、琶子のサイン入り著書がしっかり握られている。
「ホラ、早く!」と則武に促されるまま、裕樹は横に並び、則武と同じように頭を下げる。
清はその様子を眺めながら、金成とシャンパングラスを傾けていた。
それにしても……と琶子は三人の王子を前に、妄想が止められない。
今日は清も、この間のようなダークさはなかった。遠目で見る分にはプリンスだった。
榊原さんは氷点下の氷王子。
光徳寺さんはガオガオライオン王子。
水佐和さんは中性妖精王子。
琶子の頭中で、王子対姫のプロポーズ大作戦が繰り広げられる。
三人はどんなお姫様を選ぶのだろ?
シャボン玉のように浮かんでは消える王子たちの恋模様。
物語を想像する琶子の心は、虹色の幸せで一杯になる。
その琶子の後れ毛を、サラリと風が揺らし過ぎて行く。
気持ちいい、と琶子が微笑みを浮かべた途端、則武が興奮気味に声を上げる。