眠りの森のシンデレラ
「その微笑みはOKのサイン?」
葉陰から零れるオレンジ色の光りが、琶子の瞳に煌めく。
その瞳をキラキラ笑顔の王子が覗き込む。
ハッと我に返ると、琶子は頭を振り、思いっ切り頭を下げる。
「ごめんなさい。外に……出られません。では、これにて!」
ドロンと踵を返すと、忍者の如くその場を走り去る。
唖然とその後ろ姿を見送っていた則武が、ポツリ訊ねる。
「なぁ、裕樹……俺、今、振られた?」
その様子を呆然と見ていた裕樹もボンヤリ答える。
「んー、断ったように聞こえた。でも、出演依頼ではなさそうな……」
「ーーだよな!」
則武は気を取り直し、嬉々と興奮気に言う。
「琶子って変! だけど、あんなに可愛かったなんて!」
「ウン! 僕、益々ファンになっちゃった!」
「やっぱり、彼女しかいない! 絶対に落とすぞ!」
二人は顔を見合わせると、獲物を狙うハンターの如く、妖しい光を瞳に宿らせニンマリと笑う。
「ンフッ、貴方たちに落とせるかしら?」
則武と裕樹が声の方を見る。
本日の会場は、バーベキューコーナーを併設するガーデンテラス。
声の主、薫はそこに設置された大きなテーブルの前にいた。
テーブルの上には、薫手ずから作られたオードブルやデザートが並ぶ。
「あの子、見た目より手強いわよ」
ステンレス製のワインクーラーから、ボトルを一本引き抜き、真っ白なナプキンで水滴を拭い、薫は意地悪く笑う。
「嬉しいですね。手に入らない獲物ほど、狩人魂が燃えるものです」
「強気だこと」
穏やかに微笑み合う、則武と薫の瞳の間に火花が散る。
そこへ、幼い声が割り込み、緊迫した空気を和らげる。
「登麻里ちゃん、まだぁ~。桃花、お肉だけの串がイイ!」
煉瓦造りのバーベキューコーナーで、肉や野菜を焼く登麻里に、桃花が、「早く! 早く!」と皿を差し出す。
「桃花、シッ! ちょっと静かにして! エッ、何? 聞こえない。もう一度言って!」
登麻里は顎と肩に挟んだスマホに大声を張り上げ、串をひっくり返す。