眠りの森のシンデレラ

「あら、遅くなりそう、鬼? 悪魔……? ハイハイ。ああ、あの作家さんね。ちょっと鼻息荒いわよ、とにかくお仕事ガンバ! 早く帰っておいで」

「ママ?」

通話を終えた登真理に、桃花が訊ねる。

登麻里は「そうよ」と返事をし、スマホをエプロンのポケットに仕舞うと、桃花の皿に焼けた串肉を乗せる。

「アッ、野菜、付いてる!」
「お野菜も食べなきゃダメ! ママみたいに綺麗になりたいんでしょう!」

ママ大好き桃花はプッと頬を膨らませるも、渋々、登麻里の言葉に頷く。

「桔梗、何だって?」

桃花の不貞腐れ顔を見ながら、薫は登麻里にソッと問う。

「遅くなるって。ドS桔梗対ドS作家の闘い! 愉しそう! ホテルに見学に行こうかしら」

登麻里はイケナイ妄想を膨らませ、含み笑いを浮かべる。

「まったく、作家って!」薫はフルフルと首を振る。

「琶子にしても貴女にしても……ちゃんと現実も見てね。ほら、お肉、焦げかけているわよ」

薫はそんなことに構っちゃいられない、とウキウキとした様子で、右手にシャトー・ラトゥール赤、左手にモンラッシェ白を持ち、腰をフリフリ金成の方に歩いて行く。

「金蔵様、清様、ワインはいかが?」

普段以上にセクシーな甘い声が訊ねる。

「ああ、赤を貰おう、清、お前は?」
「同じものを」

薫は二人にラベルを見せた後、長い指先で流れるようにワインオープナーを操作する。そして、抜いたコルクを鼻先に持っていきチェックし終えると、満足そうに微笑む。

「薫はソムリエの資格を持っている。優雅だろ、コイツの動き」

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