眠りの森のシンデレラ

「おまけに、バレエダンサーだったしね」

串先のレッドピーマンを頬張り、話しを付け加え、桃花は金成の隣に座る。
その言葉に、ワインを注ぐ薫の手が僅かに震える。それに気付き金成が言う。

「桃花、立ち食いは感心しないが、美味そうだな。俺と清にも持ってきてくれ」
「ウ~ン、じゃあ交換条件は?」

小悪魔桃花が上目使いに金成を見る。

「そうだな、前から欲しがっていた、純白のラブラドールの子犬はどうだ?」
「エッ! ラブちゃん!」

金成が頷くと、破顔した桃花は、登麻里の元に飛んで行く。

「ホー、金成氏相手に駆け引きするとは、恐れ知らずで頼もしい姫だ」

則武は桃花の後姿を見つめながら、裕樹と空いたチェアに座る。

「人生の師が俺だからな。母子家庭だからといって、卑屈にならず、堂々と生きるよう指導している」

登麻里とはしゃぐ桃花を見つめながら、金成はグラスを傾ける。
その瞳は、他人にもかかわらず父親の眼差しだった。

清はその様子を、変われば変わるものだ、と不思議なものを見るような目で金成を見る。そして、母の思いは、これだったのかもしれない、と漠然と思う。

「フーン、しかし、無茶苦茶、可愛い子だな。母親もかなりの美人とみた!」
「エロ則武、桃花をそんな目で見るな! で、琶子は口説き落とせたのか?」
「ねぇ、金成氏は僕たちの敵なの? 味方なの?」

裕樹は薫にワインを注いでもらいながら、子犬のような人懐っこい笑みを浮かべる。

「どうかな? 男心と秋の空だ。まぁ、お前たちの出方次第だな」

金成はガハハと笑い、横目で清を見る。
清はワイングラスに口を付け、素知らぬ顔でソッポを向く。

< 64 / 282 >

この作品をシェア

pagetop