眠りの森のシンデレラ
「お待たせしましたぁ~」
真剣な顔をした桃花が、大きな皿を抱え、慎重な足取りで戻ってきた。
薫は即座にそれを受け取り、テーブルに置き、桃花の頭を撫でる。
「金ちゃん、約束だよ。白雪姫……って名前にするの。ラブちゃんよろしくね」
「桃花ちゃん、おじちゃんの代わりにお兄ちゃんが白雪姫を買ってあげる。その代り、俺のお嫁さんにならない?」
金成がジロリと則武を睨む。
桃花は則武をチラリと見ると、フーッと大袈裟な溜息を付き、則武の目の前に徐に人差し指を突き立て、チッチッチッと振る。
「おじちゃん、イケメンだけど、年齢制限に引かかってムリ! ごめんなさい」
「おじ……おじちゃん!」
則武は、思いも寄らぬ言葉に、口をアングリと開け、言葉を詰まらせる。
金成は大笑いし、裕樹はプッと吹き出し言う。
「今世紀最大の厄日? 則武ともあろう者が、連チャンで振られるとは……ご愁傷様」
「何だ、やっぱり琶子に振られたか」
金成は引き攣り笑いをしながら、目元の涙を拭う。
「ったく! 眠りの森の女人たちに、どんな教育しているんですか! 責任を負って琶子に口添えして下さい!」
「バカか! チャンスはやった。口説き落とせないのはお前の甲斐性がないからだろ。まぁ、せいぜい頑張れ」
清の頭中に金成の言葉が蘇る……『則武の提案』『外の世界も見て欲しい』『チャンス』
彼女を外に連れ出せたら、俺も何かが変わるだろうか?
フトそんな疑問が頭を過る。
あちらこちらに置かれたランタンの柔らかな明かりとキャンドルの温かな灯りが、すっかり陽の落ちた暗闇をほのかに照らす。
清はワイングラスをテーブルに置くと静かに立ち上がる。
面白い! ならば、仕掛けてみるか、誰のためでもなく自分のために……。