眠りの森のシンデレラ
琶子は盛大な溜息を付くと、キッチンから続く地下室のドアに手を掛ける。
「何をしている?」
「ワッ!」
不意に掛けられた声に、琶子は悲鳴を上げ飛び上がる。
そして、振り向き、安堵の息を漏らす。
「……榊原さん……ビックリしたぁ~」
「お前の声の方がビックリだ。で、何をしているのだ」
琶子は、手にしたメモ用紙をヒラヒラさせる。
「リストにあるワインを集めに」
嗚呼、と清は思い出す。地下のワイン貯蔵庫には、常時数百本のワインが並び、父がコレクションした希少なワインも陳列していた筈だ……と。
懐かしい……。
「俺も行こう」
「いえ……あっ、えっと……あっ、そうか、いいんだ」
「君は何が言いたいのだ?」
清は人間を丸裸にし、本性を引き出すのが上手い。
だが……と琶子を見る。
この女、本当に理解し難い奴だ。
考えの読めない琶子に、清は少し苛立つ。
「ハイ、えっと、金ちゃんはですね、私以外の人間を地下のワインセラーに入れないんです」
そして、不貞腐れたように唇を突き出す。
「ソムリエの薫さんを担当にしたらいいのに……ワイン探すの大変なのに……」
ブツブツと文句を言う。
こんな顔もするのか……子供の様だな、と苛立ちが少し和み、清は僅かに目尻を下げる。
「……あっ、でも、このお屋敷は榊原さんのでした。入る権利大有りですね」
「なるほど」
清は合点したとばかり軽く頷き、顎でドアを開けるよう指示する。