眠りの森のシンデレラ

だが、則武のあの時のあの顔は見ものだった、と琶子は思い出し笑いをする。

「おじちゃん、それはちょっと違うよ!」

突然、則武の意見に異議申し立てしたのは、若干五歳の桃花だった。
桃花は則武を前に仁王立ちし、腰に手を当て熱弁をふるった。

「勝ち負けも大切だけど、一生懸命頑張っている時間が楽しいんだよ。それに、いつも勝ってばかりじゃ勝った時の嬉しさは分からないよ。『悔しい』から気付くこともあるって園長先生が言ってたもん!」

そして、右腕を水平にグッと前に突き出し、則武の胸を指で指すと、止めを刺した。

「だから、辞書に『敗者』も載せなきゃダメ!」

桃花の言葉に則武は口をポカンと開け、唖然と彼女を見つめた。
その顔が、小生意気な娘の親の顔が見てみたい……と言っていた。

本当の親ではないが、育ての親の一人とも言える金成は、お腹を抱え大笑いし「どうだ、俺の教育の賜物だ。桃花はイイ女だろ!」とご満悦だった。

琶子は、流石、園長先生! と心の中で盛大な拍手をした。

そして、拍手をしながら、フト思った。
三人の富豪たちは一体どんな生き方をしてきたのだろう……と。

ゲームの件も然りだが、清の言動も計り知れないし、則武の思考も理解し難い。
裕樹……彼は良く分からない人だ。

人の価値観は人それぞれだ。
だが、彼等の価値観は……全く理解できない。

そう言えば聞いたことがある……と琶子は思い出す。
階層ピラミッドのステージが違うと、相手の言葉が宇宙語に聞こえ、会話が成り立たないと……。

宇宙人なら妄想世界の付き合いだけで十分だ!
そう思うのに……避けたいのに……どうしてこうなるのだろう……。

『それが運命なのよ』

突然、今は亡き恩人風子の言葉が……蘇る。
蘇ると同時に、忘れたいのに忘れられない過去を思い出す。

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