眠りの森のシンデレラ
じゃあ……クローバーとの出会いも、また運命?
ならば、そこにどんな意味があるのだろう?
琶子がそう思った時、金成の声が聞こえた。
「迎えの車がお出でなすったぞ」
初めてのお使いをする我が子を見るように、心配気に琶子を見る登麻里と薫。
琶子は腹を据え、立ち上がる。
桃花が駆け寄り、ギュッと琶子の腰に手を回し、潤んだ瞳を見上げる。
「虐められたら、すぐ帰っておいで!」
大袈裟なんだから……と思いながらも琶子はその思いに感謝し、「うん」と頷き、桃花の髪を撫でる。
「スマホ、持ったわね」
琶子の外出が決まってすぐ、登麻里が用意してくれたものだ。
生まれて初めて手にする、それの使い方を教えてくれたのは薫だ。
「何かあったら、すぐ電話するのよ。迎えに行くから」
薫の優しい眼差しが琶子を見る。
「はい、ありがとうございます。……ん? 桔梗さんは?」
「嗚呼、彼女? 風子ディナーの日からおかしいのよ……放っておきなさい」
登麻里が答える。
桔梗はその日遅く帰って来た。三人の御曹司たちは帰った後だった。
登麻里から当日の様子を聞くと、真っ青になったらしい。
その日から、気持ち此処に非ずといったようにボーッと塞ぎがちだ。
「桔梗のことは心配しないで、貴女は自分のことだけ考えなさい」
登麻里の手が優しく琶子の頭を撫でる。
本当にこの子は優しい。自分より、まず他人だ。それが、この子の強みであり弱みでもある……。
「気を付けて、行ってらっしゃい」
頭に置いた掌に登麻里は願いを込める。
どうか、そんな琶子を傷付けないで、と……。