眠りの森のシンデレラ
迎えの車はベンツだった。
金成の車と同種だが、こちらの方が見るからに高そうだ。
運転手が、後部席のドアを開け「どうぞ」と琶子を中へ誘う。
琶子は緊張で胃の辺りがシクシク痛み出すが、ここで逃げるわけにはいかない、とキュッと口元を引き締め、車に乗り込んだ。
「これ、お持たせに」
そんな琶子に、薫がケーキボックスを手渡す。
箱から漂う微かな甘い香りに、スーッと気分が落ち着き、僅かに口角が上がる。
「ありがとうございます。行ってきます」
運転手がパタンとドアを閉めた途端、眠りの森から我が身が切り離されたように感じ、琶子にまた不安が襲いかかる。
それを拭い去るように、琶子はスモークの掛かった窓に手を当て外を見る。
外から中は見えないだろうに、手を振る皆んな。
琶子の胸に熱いものが込み上げる。
「では、出発いたします」
運転手の落ち着いた言葉と共に、車がゆっくり走り出す。
皆んなの姿が後ろに流れ消え行く。
この外出で何か得られるのだろか?
得られたら、その先に何があるのだろう?
琶子は複雑な面持ちで、車窓を見続ける。
森を抜け、堀に架かる橋を目にすると、琶子の緊張が高まる。
この橋の向こうに……その答えが……ある?
一時停止していた車が、ゲートが開くと同時に動き出す。
ギュッと組んだ琶子の両手に力が入る。
これも運命なら、臨んでみよう……抗えない現実に……。