眠りの森のシンデレラ
一時間ほどすると、辺りの景色が、またガラリと変わり、眠りの森にも似た林に入る。林は緩やかな上り坂になっているらしく、木々の間から家々の屋根が見え始める。
「お嬢様、お疲れ様でした。間もなく到着いたします」
運転手の言葉から数分後、目前に見上げるほど背の高い門扉が現れる。
薔薇の鋳物で型取られた、豪華な模様の付いた鉄の門だ。
車がその前で止まると、ひとりでに門扉は左右に開き、道を開ける。
何処かに監視カメラがあるらしい。
舗装された道を更に数分行くと、眠りの森に劣らぬ立派な洋館が見えた。
運転手の説明では、建築家ジョサイア・コンドルという、鹿鳴館や旧岩崎邸洋館を設計監理した人が手掛けたものだそうだ。
運転手は、エントランス前の円形噴水をグルッと半周し、車を玄関前に着ける。
立派な木製扉の前で横並びする三人の女性。
お揃いのユニホームを着た彼女たちに、琶子は地味に驚嘆する。
もしかしたら、この人たち、俗にいうメイドさん?
そして、あのユニフォームはメイド服?
生まれて初めて目にするそれに、琶子のテンションが一気に上がる。
運転手がドアを開け、琶子が外に出ると、三人は恭しく頭を下げる。
その中で一際凛とした人物が、一歩前に出て、告げる。
「いらっしゃいませ。ご案内申し上げます」
シャキッと伸びた背筋、お団子を下の方で結ったひっつめ髪、そして丸眼鏡。
琶子の目に、その人がハイジに出てくるロッテンマイヤーさんに見えた。
「あっ、こんにちは」
慌てて頭を下げると、ロッテンマイヤー似のその人が、ビシッと言葉を発する。
「私共は使用人でございます。清様のお客様が、私共に頭を下げる必要はございません」
昔、風子が同じようなことを言っていたのを思い出し、琶子はハッとする。
琶子は叱られたにもかかわらず、淡々とした物言いだが、仕事に対するプライドの高さと勤勉さが垣間見え、何となく、この人好きだなぁ、と好感を抱く。