眠りの森のシンデレラ
屋敷の中は、シックで深みある上品なヴィクトリアン調家具で統一されていた。どれもこれも一目で高価な品だと分かる年季の入った立派なものだ。
琶子は前方を行くメイド姿をジッと見つめていた。
そして、次回作に絶対メイドを登場させよう、とその姿を目に焼き付ける。
「こちらからどうぞ、お出になって下さい」
琶子が案内されたのは、プールに面した中庭だった。
そこに清は居た。
清は真っ白いパラソルの下、ガーデンテーブルに片肘を付き、足を組み座っていた。どうやら眠っているらしい。
その姿はまるで一枚の絵の様に美しく、琶子は一瞬息を飲む。
そして、しみじみ思う。居るんだ、存在だけで息の根を止められる人が……と。
「清様、お連れ致しました」
ロッテンマイヤー似のメイドが静かに声を掛ける。
清は瞼が持ち上げ、手首の時計を見る。
「二時……時間通りだ」
そして、腕時計から琶子に視線を移すと、目を細める。
フンワリとした膝下丈のブルーのワンピースにバレーシューズ。
先日のボーイッシュな出で立ちとは違う様に、清は少し動揺する。
「よく来たな」
それを隠すように、いつも以上にポーカーフェースで、足を解き、背中を椅子の背に預け、腕組する。
「お招きありがとうございます」
琶子が薫からの手土産を清に渡すと、清は「おトヨさん」とロッテンマイヤー似のメイドにそれを渡し、耳打ちする。
おトヨさんと呼ばれたメイドは踵を返し、ケーキボックスを手に姿を消す。
「どうだ、外に出た感想は? まっ、外といっても車内だ、間接的にだが」
清はクイッと顎で「ここに座れ」と隣の席を指す。
テーブルには、お茶の支度がしてあり、三段のケーキスタンドに、ドルチェやサンドイッチが彩り良く盛られていた。