眠りの森のシンデレラ
琶子はコクンと頷き、腰を下ろし、答える。
「心臓がドキドキしました。未来都市を見ているみたいで……」
興奮気に答える琶子の瞳が明るく煌く。その瞳に清はホッと安堵する。
「恐くはなかったか?」
意外にも優しい声に、琶子は少し戸惑いながら、「はい」と返事をする。
「それは何よりだ。第一回目のリハビリとしては上々だな」
清がメイドに目を向ける。
メイドは、サッとティーポットからお茶をカップに注ぐ。
セカンドフラッシュダージリン?
琶子はフワリと鼻先に香るしっかりとした濃い香りに、その紅茶の名を浮かべる。
「もう、下がっていい。あとは適当にやる」
清の言葉に、メイドたちは姿を消す。
「久し振りの外出だ。緊張で疲れただろ。甘い物でも食べて、ゆっくりするがいい。薫には負けるが、家のシェフもそこそこ美味いものを作る」
初めてみる清の気遣いに、琶子は一瞬驚いたものの、「ハイ、頂きます」とおしぼりで手を拭くと、早速に濃い色の紅茶をストレートで一口飲む。
やっぱり! 美味しい! 琶子の顔が綻ぶ。
「薫からのケーキは、後学のため、シェフに食べさせた。許せ」
紅茶を味わっていると、思いも掛けない謝罪が聞こえ、琶子は目を丸くする。
何か今日この人変! 槍でも降ってくるのか、と真っ青な空を盗み見、恐縮しつつ「いえいえ」と顔の前で手を振り、「お役に立てたなら、薫さんも嬉しいと思います」と引き攣り笑いを浮かべる。
それから、おずおずと一口大のサンドイッチに手を伸ばし、パクリと口に入れる。
あっ、美味しい!
『覚えておいて損はないわよ』そう言って、風子が教えてくれた、アフタヌーンティーの食べ方。
『ティーフーズは三段目、下から食べれば間違いないわ。塩気の物から甘い物へが基本よ。イイ女はねっ、正式なマナーをスマートに熟し、緊張する場でも物怖じせず堂々としているものなの、琶子もそんな女性になってね』
風子は、プロトコールマナーも古式ゆかしい日本のマナーも、日常に取り入れ、自然にできるよう学ばせてくれた。
『プロトコールマナーはね、国際儀礼や世界標準マナーと称され、正式な場で国際交流する際、この世界共通のルールであるプロトコールマナーを守らなければいけないの。琶子もシッカリ身に付け、世界で活躍する女性になってね』
世界で活躍する女性ではないが……と琶子は思う。
風子の教えははシッカリ身に付いていた。
だから、一旦食べ出すと、清の前でも躊躇いなく美味しく食することができた。
「それにしても、ここも広いですね。お一人で住んでいらっしゃるのですか?」
サンドイッチを食べ終え、二個目のスコーンに、クロテッドクリームを塗りながら、琶子は訊ねる。
「祖父と住んでいるが、俺も祖父もあちらこちら飛び回り、ここに帰るのは月一回、一週間ほどだ」
清も紅茶に口を付ける。