眠りの森のシンデレラ
清と過ごす二人切りの時間は、琶子が思っていたほど苦痛ではなかった。
むしろ、楽しかった、と言っていいほどだった。
お茶の後は、腹ごなしに、と庭を散策したり、屋敷内を案内してもらったり……特に図書室の豪華さと書籍の多さは圧巻だった。
図書室は北の離れにあり、二階まで吹き抜けた部屋の壁一面が本棚で、ジャンルごとに整頓良く並んでいた。
「写真でしか見たことがありませんが、イギリスの大英博物館図書室みたいですね!」
琶子の興奮した声に清が尋ねる。
「何だ、お前は大英博物館図書室に行きたいのか?」
「ハイ! 大英博物館図書室以外にも……もし、どこでもドアがあったら、華麗と言われる世界中の図書館を巡りたいです」
それは琶子にとって、途方もない大きな夢だった。
「フ~ン、リハビリ次第だな……」
清は意味有り気に、ニヤリと口角を上げる。
清のそんな様子に気付きもせず、琶子が尋ねる。
「あのぉ、探していた本を見つけたので、読んでもいいですか?」
そして、チラッと本棚を見る。
「ああ、好きにしろ」
清が答えると、琶子は飛び上がらんばかりに喜び、本棚から本を一冊抜き出し、窓際のソファーに身を預け、カウチに足を乗せると、リラックスモードで読書タイムに入った。
俺の前でこんなにも、自由奔放に過ごす奴もいないな。清は肩を竦め、胸ポケットからスマホを取り出すと、一心不乱に読み耽る琶子の写真を盗み撮る。
その写真に向かって清は呟く。
俺がお前のどこでもドアになってやる……と。