眠りの森のシンデレラ
案の定、市之助も頭を振り、申し訳なさそうに言う。
「何処かの病院に入院しているとは聞いている。だが、それ以上の情報は入ってこない」
「……そうですか」
琶子はガックリと肩を落とし、下を向き、ギュッと唇を噛む。
「お前は優しい子だね。あれだけ酷い目に遭っていながら、母親を思いやるとは……」
市之助が目を細める。
清はマロングラッセを一粒手に取ると、グイッと琶子の唇に押し付ける。
「その癖は止めろ。唇が切れると言っただろ」
あまりにグイグイ押し付けられるので、琶子は仕方なく口を開ける。
清がそれを押し込むと、琶子の口内に芳醇な洋酒の香りと、甘いバニラの香りが広がる。
哀愁漂う顔がパッと明るくなる。
「美味しい! ラム酒と……ブランデーかなぁ、大人の味ですね!」
「気に入ったか? 土産に持って帰るといい」
満足そうに清が頷く。
「有難うございます。薫さんたち、喜びます!」
清の言葉に、琶子は零れんばかりの笑みを浮かべる。
その笑みに愛おしさが湧き上がり、琶子を抱き締めたい衝動に駆られる。
クソッ、祖父さえいなければ、この場で琶子を抱き締めるのに、と清は市之助をギロリと睨む。