生き続ける意味
静かな廊下。
誰も、なにも言わない。
聞こえてくるのは、晴ちゃんの泣き声だけ。
「晴ちゃん、ここ座れる?」
なんとなくたどり着いたのは、プレイルーム。
真ん中にあるテーブルのところに車イスを止めると、晴ちゃんがイスに移った。
「ヒナ?すこし遊んでて?」
そう言うと、晴ちゃんの方を心配そうにみながら、しぶしぶうなずいた。
あたしは隣に座ると、泣き続ける晴ちゃんの背中をさすった。
しばらくすると、すこし落ち着いてきた。
「晴ちゃん... ごめんね。」
こんな言葉しか出なかった。
優しい晴ちゃんは、小さく首を振るけど。
「... あたし、すこしだけど、晴ちゃんの気持ちわかるよ。
だって、わかんないくせに、無理に"治るよ"とか言われたくないもんね。
何回も言われると、治らないのはわかってるから辛いし... 言われる方が辛い。」
わかる。晴ちゃんほどじゃないかも、しれないけど、あたしも辛いから。
ゆっくり、話す。
こんなんで、晴ちゃんの気持ちが楽になるなんて、わからないけど。
「晴ちゃん、晴ちゃんは今までそのこと誰かに言った?
... ずっとがまんしてきたの?」
晴ちゃんは優しいから。
思いやりがあって、明るくて。
けど、あたしは晴ちゃんの弱い所を見たことがない。
晴ちゃんはうなずきも、首を振りもしないでただ黙ったまま。