甘い恋じゃなかった。
パジャマを着て髪の毛を乾かしリビングに行くと、愛良さんは私の布団に潜りこみ眠っていた。
大人びた雰囲気の愛良さんだけど、寝顔はやっぱり少し幼い。そうだよなぁ、まだ高校生なんだもんね。
愛良さんが眠っている今、どうやらこれ以上の悪戯は、今日はなさそうだ。
私は内心安堵しながら、音をたてないよう注意してソファに向かう。そして掛布団をめくり潜り込もうとしたところで、目を疑った。
だってそこには。
あろうことか、巨大なGが堂々と鎮座していたのだ。
「ぎゃぁぁぁあああ!!!」
悲鳴をあげてズサササッ!と我ながら物凄い勢いで飛び退くと、ガラリとドアが開き寝ぼけ眼の桐原さんが顔を出した。
「んだよ、うっせーな」
「きっ桐原さん!出ました!奴が!ごっゴキブリが!!」
「ゴキブリぃ?」
怪訝そうな顔をした桐原さんが、ガシガシと頭を掻きながら私の指差す方に近づく。
「いねーじゃん」
「えぇっ!?そんなはずは…」
恐る恐る近づいてソファを見ると、桐原さんの言う通り、ゴキブリの姿はもうそこにはなかった。
「おかしいな、さっきまで確かにここに」
「寝ぼけて幻でも見たんじゃねーの」
桐原さんは冷たくそう言って、さっさと自分の部屋へ戻ってしまった。「もう騒ぐんじゃねーぞ」と念をおして。
確かにいたはずなのに。
おかしいなぁ…。