甘い恋じゃなかった。
いやでも、私はハッキリとこの目で見たのだ。あれが幻だとは思えない。
ということは、きっとどこかに隠れ潜んでいるはずだ…!
そう思ったが最後、もう呑気に寝ている場合ではない。眠っている間に顔にでも乗られたらと思うとゾッとする。
ガサゴソと戸棚の中のゴキブリ退治グッズを漁っていると、
「何やってんの?」
背後から冷たい声がした。
振り向くと愛良さんが布団の上に上半身を起こして座っている。
「実はさっき出たんですよ、奴が!それで奴との来るべき戦いに備えて装備を…!」
「奴ってもしかしてコレのこと?」
そう言って愛良さんが手に持って見せてきたのは、な、なんと、ゴキブリ…!!
「ぎゃぁぁぁぁ〜っ!!」
悲鳴をあげた私に、愛良さんがフ、と口角を歪ませる。
「こんなおもちゃにビビッちゃって。バッカじゃない」
えっ…?は?おもちゃ?
「うるっせぇぞ!」
ガラリ!
扉が開いて、怒り心頭の桐原さんが顔を出した。