甘い恋じゃなかった。





「はい、終わり」


「………」



塗り終えた爪を顔の前にかざして、愛良さんは凝視していた。




「どうですか?できるだけ丁寧に塗ったつもりなんですが」



「ふ、ふん。こんなもの、私だって慣れればすぐに出来るようになるし」




そう言いつつ、愛良さんは熱心に私が塗った方の爪を眺め続けている。


…素直じゃないんだから。



なんか愛良さんって、意外と可愛いところあるんだな。




「せっかくだからどっか出かけます?」


「は?何で私がアンタなんかと」


「こないだ、桐原さんのこと誘ってたから。どこか行きたいのかと思って」


「べっ別に?行きたい所なんてない」




そして再び爪を眺め始める。どうやらよっぽど気に入ってくれたらしい。




「…やっぱり出かけましょう」


「だから出かけないって」


「せっかく綺麗にマニキュアしたのに勿体ないでしょ。ほら早く」



そして愛良さんにカバンを押し付ける。



「ちょっと!」


「あ、まだマニキュア乾いてないから注意して」



そして私も出かける準備をするため洗面所に向かった。




< 106 / 381 >

この作品をシェア

pagetop