甘い恋じゃなかった。
「はい、終わり」
「………」
塗り終えた爪を顔の前にかざして、愛良さんは凝視していた。
「どうですか?できるだけ丁寧に塗ったつもりなんですが」
「ふ、ふん。こんなもの、私だって慣れればすぐに出来るようになるし」
そう言いつつ、愛良さんは熱心に私が塗った方の爪を眺め続けている。
…素直じゃないんだから。
なんか愛良さんって、意外と可愛いところあるんだな。
「せっかくだからどっか出かけます?」
「は?何で私がアンタなんかと」
「こないだ、桐原さんのこと誘ってたから。どこか行きたいのかと思って」
「べっ別に?行きたい所なんてない」
そして再び爪を眺め始める。どうやらよっぽど気に入ってくれたらしい。
「…やっぱり出かけましょう」
「だから出かけないって」
「せっかく綺麗にマニキュアしたのに勿体ないでしょ。ほら早く」
そして愛良さんにカバンを押し付ける。
「ちょっと!」
「あ、まだマニキュア乾いてないから注意して」
そして私も出かける準備をするため洗面所に向かった。