甘い恋じゃなかった。





暫くして、遠慮がちに試着室のカーテンが開き、おずおずと愛良ちゃんが顔を覗かせた。



「やっぱり似合わないんだけど…」


「え?いいから見せて!」


「あっ!」



強引にカーテンを開け切ると、顰めっ面をした愛良ちゃんがバツの悪そうに立っていた。



「似合ってるじゃん!可愛いよ」



その言葉に嘘はない。本心だった。
大人っぽい雰囲気の愛良ちゃんだが、こういう可愛い系の服もよく似合う。



「嘘ばっかり…」



愛良ちゃんはわざとらしく眉をひそめてそう言ったが、こそばゆそうに口元が一瞬緩んだのを、私は見逃さなかった。



もういいだろうとばかりに、カーテンがシャッと勢いよく閉められる。




はじめは暴力的だし悪戯ばかりするクソガキ…失礼。少々やんちゃな少女だと思っていたが、そうでもないということが徐々に分かってきた。



本当は素直で、可愛らしい普通の女の子だ。




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