甘い恋じゃなかった。
その試着したトップスと、それに合うショートパンツ、そしてもう一軒で愛良ちゃんが一目惚れしたワンピース、計三点を購入した。
「…別に奢ってくれなくてもいいのに」
隣を歩く愛良ちゃんは申し訳なさそうに紙袋へ視線を落とした。
「いいって、これでも一応社会人ですから」
「…ふーん」
そっぽを向いた愛良ちゃんの足が、はたと止まる。
「ん?どうした?」
「…マドレーヌ」
「え?」
一つのショーウィンドウに駆け寄る愛良ちゃん。そこには、たくさんのマドレーヌが並べられていた。
ポピュラーな茶色のものだけではない、ピンクや、あれは抹茶味だろうか、緑色のものもある。
愛良ちゃんは腰をかがめて、熱心にそれに見入っていた。
「好きなの?マドレーヌ」
もしかしたら愛良ちゃんもスイーツ女子なのだろうか。
愛良ちゃんの隣で同じように腰をかがめてみると、甘いバターの香りがした。
「お兄が昔、よく作ってくれたから」
愛良ちゃんがその目はショーウィンドウに向けたまま、ポツリと言葉を落とす。
「お兄って、桐原さんが?」
「うん。うち、両親が仕事忙しくて全然家にいないウチだったんだけどさ。そんな時、お兄がいつも私の為に焼いてくれたんだよね、マドレーヌ」
「…そうだったんだ」
ふうん。妹想いなところもあるんだ。