甘い恋じゃなかった。
ニヤ、と愛良ちゃんは笑うと、それを勢いよく真っ二つに破った。
「言っとくけどそう簡単に終わる気はないから。私たちのチーム結構強いし」
「愛良ちゃん…」
やばい。やばいよ私。なんか、
「惚れそう!」
「ちょっ…!」
ガバ、と思わず抱き着いた。
周りの乗客がジロジロと不審そうな目で私たちに視線をやるが、気にしない。
愛良ちゃんが慌てて私を引っぺがす。
「何すんのよ恥ずかしいな!」
「若人よ…」
「はぁ?」
「眩しすぎるよ若人…私、愛良ちゃんを応援する!ずっと応援してるからね!」
「は、はぁ…なんかよく分かんないけどありがと」
ガタンゴトンと電車が揺れる。
まるでこの線路みたいに、桐原さんも愛良ちゃんも、自分の道を真っ直ぐに進んでる。それが堪らなく眩しくて、羨ましい。
「…あんたお兄のケーキ好きなの?」
唐突に愛良ちゃんが聞いてきた。
「あ、はい、もちろん!」
「ふーん。まぁ絶対私のが好きだけど」
「いやいや私も負けてないよ!?!?」
「暑苦しいなぁもう。でもまぁ、お兄にもう一回ケーキを作らせたのはアンタなんでしょ?」
愛良ちゃんが呟くようにして言った。
「…お兄があんなに楽しそうにケーキ作ってるのは初めて見た」
「えぇ?そう?桐原さん結構いつも楽しそうだけど?」
「…うるさい」
何が気に障ったのか。愛良ちゃんが私の額を凄まじく威力のあるデコピンで弾く。
「痛!」
「お兄をまた泣かせたら許さないからね」
いやむしろ私のがいつも泣かされてるんですけど…というのはまたデコピンされるのが嫌なので言わないでおいた。