甘い恋じゃなかった。
「そんな仲良しの二人にこれをあげよう」
だから違うと言っているのに、店長がそんなことを言ってエプロンのポケットからペロリと一枚の紙を取り出した。
「なんですか、これ」
「花火大会のチラシ。再来週の土曜、近くでやるみたいよ~」
店長の言う通り、そのチラシには美しい花火の写真と、赤い文字で大きく花火大会と書かれていた。
近くで花火大会が行われているのは知っていたが、行ったことはなかった。ていうか花火大会自体、もう何年も行っていない。
「これ二人で行ってきちゃいなよ☆」
軽~い感じで店長が言う。いやウインク付きで言われましても。
「嫌ですね」
キッパリと桐原さんが言う。ほら思った通りだ。桐原さん花火とか全然興味なさそうだもん。
「私も…」
花火自体は好きだ。でも正直、あの異様な混み具合は辟易するものがある。
「何を言っているんだ若人たちよ!!」
すると店長が突然怒鳴りだした。ど、どうした。
「若者!夏!すなわち花火!!当たり前だろうが!!」
そして全く意味の分からない論理を振りかざしてくる。
あからさまに嫌そうな顔をしている桐原さんに向かって、店長がニッコリ微笑んだ。
「これ、師匠命令だから」
というわけで、私と桐原さんの、花火大会への参加が決まった。
「いやでも仕事が…」
「仕事より花火のが大事だからね」
尚も悪あがきをしようとする桐原さんを店長が天使の微笑みで切り捨てる。
どうやら、店長の花火大会へかける思いはこの夏よりも、熱い。