甘い恋じゃなかった。
そのとき一軒の屋台が私の目をひいた。
涼しげな氷と、色とりどりどりのシロップ。
赤と緑のかき氷を持ったカップルが、嬉しそうに私の横を通り抜けていく。
「桐原さん!」
思わず彼のポンジュースTシャツの裾を引っ張った。
「おわっ、何だよ」
「かき氷食べませんっ?」
「かき氷ぃ?いや俺は…」
「私買ってきますね!ちょっと待っててください」
「あっ、おい…!」
人混みの間を縫って、かき氷の屋台にたどり着くと、屋台のおじさんがニッと愛想良く笑った。
「はい、らっしゃい!」
「えっと…」
やばい、桐原さんに何の味がいいか聞いてくるの忘れた。まぁいいか、適当で。
「いちご一つと…ブルーハワイ一つください!」
「いちごとブルーハワイね!ちょっと待ってね!」
おじさんがガガガガガッ!と機械で氷を削って、その上から赤と青のシロップをなみなみとかける。
あぁ、なんかすごく、夏っぽい。
懐かしいなぁ、かき氷なんて食べるの。
おじさんからかき氷を受け取って、人混みの間をかき氷を落とさないように何とか歩き、桐原さんの元へ戻ると。
「ねぇお兄さん、一人?はぐれたの?」
「すっごいイケメンですね!」
浴衣姿の女子二人に囲まれていた。
…さすが王子。逆ナンされるのもお手の物らしい。