甘い恋じゃなかった。






「…あれ、小鳥遊?」



暫く歩いていると、聞き覚えのある声。

見ると、目を丸くした牛奥が私に向かって手を振っていた。



「えっ牛奥!?来てたんだ!」


「おー、俺昔っから中学の奴らとコレくるの定番だからさ」



そっか、牛奥地元もこの辺だもんね。




「小鳥遊も来てたんだな」



「あ、うん。私は初めて来たんだけどね」



「ふーん、そっか」




牛奥が、私の隣にいる桐原さんを見て、固まる。




「あ…桐原さん?」


「…どーも」



怠そうに挨拶をする桐原さん。




「ど、どーも」




牛奥が礼儀正しく頭を下げた。



そして顔を上げた牛奥と、桐原さん。なぜか数秒、お互い無言で見つめ合う。




…ん?何これ?




「…ちょっと?」



声をかけると、牛奥が「…あー、いや」とバツの悪そうに桐原さんから顔を逸らして首の後ろを掻いた。




「じゃぁ…2人も楽しんで」



「うん。また会社でね」



「おう」




どこか歯切れの悪い笑顔を残して、仲間の元へ戻っていく牛奥。 …?どうしたんだろう。ま、いいか。




「行きましょうか桐原さん」



残り少なくなったかき氷をつつく桐原さんに声をかけると、「追いかけなくていいのかよ?」と謎なことを言われた。



「は?追いかける?」



「アイツ。なんか誤解してんだろ」




誤解…??




キョトンとする私を見て、桐原さんが「…マジか」と呆れたように呟いた。




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