甘い恋じゃなかった。
「お前…鈍すぎだろ」
「は?鈍い?」
「いや…いいや。アイツも大変だな」
そしてため息を一つついて歩き出す。
「ちょっとそれ、どういう…」
「あ。始まった」
桐原さんの声につられて顔を上げた瞬間、夜空に大輪の花が咲いた。少し遅れて、ドン、と体に響く低い音。
「うわっ…綺麗…!」
次々と打ち上げられる花火。観客の歓声がそれを追いかけていく。
花咲いては、夜空に消え、その儚さが私たちの心を捉えて離さない。
「わ〜すごい!また大きいのあがった!」
そ、と隣の桐原さんを盗み見ると、少し驚いた顔して夜空を見上げていた。
「…桐原さん?」
「…すげ。こんな綺麗なんだな、花火って」
「え、花火大会来たことないんですか?」
「ねーよ。興味なかったし」
…ふーん。桐原さん、初めてなんだ。
桐原さんの瞳に花火が映ってる。
一緒の花火、見てるんだなぁ。
そんな当たり前のことが、なんだか少し嬉しかった。