甘い恋じゃなかった。




「お前…鈍すぎだろ」


「は?鈍い?」


「いや…いいや。アイツも大変だな」



そしてため息を一つついて歩き出す。



「ちょっとそれ、どういう…」


「あ。始まった」




桐原さんの声につられて顔を上げた瞬間、夜空に大輪の花が咲いた。少し遅れて、ドン、と体に響く低い音。



「うわっ…綺麗…!」



次々と打ち上げられる花火。観客の歓声がそれを追いかけていく。


花咲いては、夜空に消え、その儚さが私たちの心を捉えて離さない。




「わ〜すごい!また大きいのあがった!」



そ、と隣の桐原さんを盗み見ると、少し驚いた顔して夜空を見上げていた。



「…桐原さん?」


「…すげ。こんな綺麗なんだな、花火って」


「え、花火大会来たことないんですか?」


「ねーよ。興味なかったし」




…ふーん。桐原さん、初めてなんだ。



桐原さんの瞳に花火が映ってる。



一緒の花火、見てるんだなぁ。



そんな当たり前のことが、なんだか少し嬉しかった。




< 143 / 381 >

この作品をシェア

pagetop