甘い恋じゃなかった。




「切り替え早いよな、女は」



牛奥が苦笑いをして言った。



「俺は失恋とか、結構いつまでも引きずるタイプだからなー…。ね、桐原さんはどうです?」



ここでなぜ桐原さんに話をふる牛奥ーーーーー!!



キッと牛奥を睨みつけると、牛奥がビクッと肩を揺らした。そして小声で「え、なんかマズッた?」と聞いてくる。



マズいに決まってる。だって桐原さんにはあんな過去があって。今でもきっと―――



ハラハラしながら桐原さんを見ると、彼は思いのほか落ち着いていて。



「…さぁな?」



何でもないような顔で、そう言っただけだった。



とりあえず、ホッと胸をなでおろしたのも束の間。



「えー?さぁなってどっちなんですかー?
桐原さんの恋愛事情、超聞きたい~♡」



なぜかギャル風の間延びした声でさらに話を掘り下げる莉央。



「ま、まぁまぁ、そんなことよりお肉を食べ…」


「明里は黙ってて!」


話を逸らそうとしたが、莉央の鋭い声に遮られた。仕方なく私は網の隅で焦げ付いていたお肉をチマチマと食べる。


恋愛ハンターモードになった莉央を止めるのは最早不可能といってよい。




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