甘い恋じゃなかった。
「い、言われなくても分かってるっつーの、そんくらい!」
吹き出した莉央に眉をひそめると、牛奥は吐き捨てるようにそう言った。
頭に蘇るのは、最後に出てきた桃がメインの皿盛りデザートに盛り上がる2人の姿。
明里は、桐原のことを尊敬している。そして桐原の作るスイーツが大好きなんだろう。
でも、好きなのは本当に“スイーツ”だけなのか?
もしかしたら、それだけじゃなくて…
「そんな辛気臭い顔してると、ますます超絶イケメンの桐原さんと差がつく一方だよ」
まるで先生のような口調でそう言いつつニヤニヤしている莉央を、牛奥は軽く睨むようにして見る。
「そんなに面白いか?俺が」
「面白いに決まってんでしょ」
「お前なぁ…」
「ていうか牛奥って、いつから明里のこと好きなの?けっこう入社序盤から好きそうだったけど、きっかけとかあるの?」
入社序盤から気付かれてたのかよ…。
改めて自分の分かりやすさに落ち込む入社3年目の牛奥。
ガタンゴトン、と電車の音が遠くなる。思い出すのはあの日のこと。