甘い恋じゃなかった。
「残業?まだかかりそうなの?」
「あー…まぁ。小鳥遊こそ、結構帰り遅いんだな」
「うん、まだなかなか慣れない仕事も多くて。本当すごいなって思うよ、先輩たちは」
屈託なく笑う小鳥遊。なんだか、その笑顔に見入ってしまう俺がいた。
「…牛奥?」
「あぁごめん。何でもない」
「なんか顔色悪くない?本当に大丈夫?」
心配そうに俺を覗き込む小鳥遊。
小鳥遊とは同じ本社勤務だが、仕事の内容はまるで違う。きっと話したって分かるはずない。でも、なぜだか俺は話を聞いて欲しいと思った。目の前の、小鳥遊に。
一通りのことを話し終わって、俺は改めて天を仰いだ。あぁ、話して分かったけど。やっぱり今の状況は絶望的すぎる。
「仕方ないよな、今回は他にもバックアップを取っておかなかった俺のミスだ。勉強になったと思って、今回は諦め…」
「何言ってんの!?」
それまで黙って俺の話を聞いていた小鳥遊がクワッと目を剥き言った。
「諦めたらそこで試合終了なんだよ!?」
そしてどこかで聞いたことのあるセリフを声高らかに叫ぶ。
「いやでも、仕方ないだろ?プレゼンは明日なんだから」
「あと12時間もある」
カバンを置き、羽織っていたカーディガンを腕まくりする小鳥遊。
「おい、小鳥遊?何…」
「やろう!私は諦めたくない、これまでの牛奥の努力が無駄になるなんて」
ニ、と小鳥遊が笑う。あぁそうか。この状況はまだ頑張れば、どうにかできる状況なのか?
彼女の笑顔は、そう俺に錯覚させる。
「私も手伝うから。やろう、二人で」