甘い恋じゃなかった。
♡夕立夏スイーツ
カランコロン♪
鈴が鳴る。
サッと体が冷房のヒンヤリとした空気に包まれる。
「っしゃいませ~!!」
そんな空気の中、店長の暑苦しい声が響き渡る。
時刻は午後4時過ぎ。
暑さのピークは越えたが、まだ外では高く太陽が輝き続けている。
ス、と汗が引いていくのを感じながら、空いているカウンター席に腰かけた。
「ご来店どーも、明里ちゃん。買い物でもしてきたの?」
私の前に水が入ったグラスを置いてくれる店長。
「うん、買い物して映画観てきた」
ずっと見たいと思っていた恋愛映画。
エリート社長と、庶務課のOLが身分違いの恋に落ちるという珠玉のラブストーリーだった。
まだ余韻冷めやらぬ私は、聞かれてもいないのに感想をペラペラと話し始める。
「もう、社長がホンットかっこよくて!!
会社の女子社員に虐められたヒロインが会社を飛び出しちゃうんですけど、それを追いかけていった社長と夕立にあっちゃって…二人で駄菓子屋の軒先に避難するんですけど、そこでキスするシーンなんかもう…!」
「スクリーンの架空人物に熱上げる前に現実世界で男探せよな」
そのとき、そんな辛辣な言葉と共に、厨房の中から桐原さんが現れた。
「うるさいですよ!」とすかさず反論しようとしたのだが、思わずタイミングを逃してしまう。
だって彼の持つお盆の上にのった、キラキラ光るケーキに目を奪われてしまったから。