甘い恋じゃなかった。
「なんですかそれ!?」
思わず身を乗り出して尋ねた私に、桐原さんが鬱陶しそうに眉をひそめる。
「うるさ。お前には関係ない」
「ちょっと!お客に向かってうるさって何…」
「師匠、試食お願いします」
私の文句を華麗にスルーし、店長の前にそのケーキを置く桐原さん。
いいなぁ、店長。
羨ましく思いながらもなんとかケーキを見ようとカウンターの中を覗き込んでいると、店長がそんな私を見てフ、と口元を緩めた。
「よかったら試食してみる?明里ちゃん」
「えっ…いいんですか!?」
「師匠!?なんで俺の新作をコイツなんかに…」
すかさず異議を唱える桐原さん。
「新作!?これやっぱり新作なんですか!?」
しかも、俺のってことは桐原さんが作ったってことだよね!?
桐原さんを見つめる私の目は恐ろしくギラギラ光っていたんだと思う。桐原さんの顔がひきつっていた。
「師匠…俺やっぱりコイツに試食させるのは納得できません」
「なんで?僕が一番信じているのはお客さんの反応だよ」
そう言って、店長が私の前にケーキを置いてくれる。
「うわぁ…」
思わずため息が漏れた。
なんだろうこのケーキ。青くて、表面がキラキラ光ってる。不思議なケーキ。でも近づいてみてすぐ分かった。これ、氷だ。この青はなんだろう。ブルーハワイ…?
それに、一番上に散らしてある、細かくカットされた色とりどりのフルーツ。丸くなるように散らされているそれは、まるで大きなお花のようだ。…いや、違う。これ…
「花火?」
フン。
まだ私が試食することに納得していないらしい桐原さんが、ソッポを向いた。