甘い恋じゃなかった。
「どれどれ」
カウンターの中から腕を伸ばし、スプーンで一口すくっていく店長。
「うん…。このミントムース、いい味だ。花火と抹茶スポンジの和テイストがうまくマッチしているのもいい」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げる桐原さん。
店長が満足気に頷いて言った。
「よし、これを夏の新メニューとして明日から加えよう!」
「お〜!」
歓声をあげる私。夏の新メニュー!すごい!もう夏半分くらい過ぎてるけど、この際そんなつまらないことを突っ込むのはやめよう。
「いいんですか…?」
桐原さんは不安気な顔だ。
「まだこんな見習いの俺が新メニューなんて」
「なぁに言ってるんだキララくん!君はもう立派なうちのシェフだよ!」
「師匠…!」
「キララくん…!」
ガッチリ握手を交わす2人の後ろで、“冷やし中華二ヶ月前から始めてます”と書かれた紙が壁から剥がれかけて揺れていた。
どうやら夏スイーツと違い、冷やし中華はきっちり夏の始まりと同時にスタートできたようである。
それにしても。
桐原さんの考えたケーキが、明日から店頭に並ぶなんて。
ワクワクする。