甘い恋じゃなかった。




桐原さんのケーキを最後の一口までじっくりと堪能し、紅茶を飲んでのんびりしていると、不意に「そうだ!」と店長が叫んだ。



「レモンが切れそうなの忘れてた!急いで買ってこないと!」


「俺買ってきますよ」



洗い物をしていた桐原さんが厨房から出てきて言った。



「そうかい?じゃぁお願いしようかな」


「はい」



財布を持って、さっそく店を出て行こうとする桐原さん…



「ちょっと待ったぁ!」



を、呼び止める店長。



「なんですか?」


「いや…明里ちゃんも一緒に買い出し行ってくれる?」


「はい?」



桐原さんが、何でお前が、という顔で私を見た。いやいや、それは私も聞きたい。



「いや、キララくん一人で持ち切れなかったら困るでしょ?レモン」


「いや大丈夫ですよ。いつも俺一人で行ってますし」


「…いや、今日はキララくん一人では持ち切れないほど大量にレモンを買ってきて欲しいんだよ」


「なぜですか?特別にレモンを使うものでもあるんですか?」



桐原さんの質問に、店長がう、と言葉に詰まる。少し考えてから、



「…僕もキララくんを見習って、レモンを使った夏の新作ケーキを作ろうかと考えててね」


「本当ですか!?」



桐原さんの瞳の色が変わる。



「…本当だよ」



この冷房がきいている涼しい空気の中。店長の額をツ、と汗が流れた。




「よし、そうと決まったら行くぞ!」




桐原さんがズカズカ歩いてきて、私の腕をつかみ強引に引っ張ってくる。



「え!?私まだ紅茶が残って…!」


「つべこべ言うな、師匠命令は絶対だ」




いや私仮にも客なんですけど!?






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