甘い恋じゃなかった。





それから近くの商店街にある八百屋さん、さらにもう一軒スーパーを周り、両手をレモンが入った袋いっぱいにしてようやく帰路に着いた。



知らなかった。レモンってこんな重いんだ。
これは一体何の修行だ…。



ぐぬぬぬぬ、と何とか足を動かし歩いていると、私の少し前を歩いていた桐原さんが涼しい顔して振り向いた。



「おい、おせーぞ」



「そんなこと言ったって…重いんですもん!ちょっとどこかで休憩して…」



「そんな時間はない。行くぞ」




それだけ言ってスタスタと先を行く桐原さん。鬼だ。



3個だ。3個、ケーキをタダで食べさせてもらおう。



そう決意を新たにし歩き始めたそのとき、ポツ、と顔に冷たいものが落ちた。


見上げると、ボツポツポツと、次々と顔に冷たいものが落ちてくる。雨だ。




「夕立か」




同じように空を見上げていた桐原さんが呟いた。そうしているうちにも、雨はどんどんと激しさを増してくる。




「行くぞ」



桐原さんが袋をシャカシャカ言わせて走り出す。


「ちょ、ちょっと!」



私も慌ててその後を追いかけた。





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